栗山愛以の勝手にファッション談義。

エマ・ストーン最新作。新年1月の注目映画『哀れなるものたち』を語る。

ヨルゴス・ランティモス監督の映画『哀れなるものたち』(原題"POOR THINGS")が2024年1月26日(金)から公開される。

だいぶ前からシュールなポスターのヴィジュアルを海外誌のサイトなどで見かけて気になっていた。幸運にも試写の案内をいただき早速観に行ったところ、ファッション目線で語りたいところが盛りだくさん。そこでこのたびはこちらの作品を取り上げたい。

本作はスコットランドの作家、アラスター・グレイ(1934〜2009)による92年に発表されたゴシック小説が原作となっている。ロンドンの天才外科医ゴッドウィンの手によって驚くべき方法で蘇生された女性、ベラが主人公で、フランケンシュタイン的な設定のファンタジーである。

ストーリー自体は教訓めいた感じが強く、私にはあんまり響かなかったのだが......、とにかく世界観とヴィジュアルに圧倒された。それは、ランティモス監督作品のポスターを全て手がけているらしいグラフィックデザイナーのVasilis Marmatakisという方によるファッション誌顔負けのポスターヴィジュアルから始まっている。手書き風のフォント(本作のクレジットにも用いられている)や異様な感じのする合成、そしてやはりストレートの黒髪でいつもとは全然違うベラ役のエマ・ストーンの佇まいが目を引く。

子供の落書きのようなインパクトのあるメイクはポスターのみなのだが、白いフリルブラウスに大きな袖がついたヴィクトリアン調のジャケットを羽織っているスタイルは劇中にも出てきて、アンダーウェア風のイエローのミニボトムと白いショートブーツを合わせていた。

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ベラのキャラクター設定の関係でボリュームのある豪奢なトップに薄手のボトムというちぐはぐな組み合わせではあるのだが、アンバサダーであるエマ・ストーンが着こなしていたこともあってか、ルイ・ヴィトンのランウェイに出てきてもおかしくないくらい(?!)魅力的だった。

資料によればどうやらおとぎ話風にするためにも時代設定を曖昧にしたらしく、原作の舞台は19世紀後半だからかヴィクトリア朝の服飾の感じはありつつもそのままではない。まるで当時に着想を得た新作コレクションを見ているかのような。ランティモス監督の前作『女王陛下のお気に入り』(2018)にも参加していたヘアメイクのナディア・ステイシーによれば、ヴィクトリア朝時代のイギリスで男性から魅力的だと思われていた超ロングヘアを下ろすのは家の中だけだったそうで、たしかに手の込んだアップスタイルではないベラのダウンヘアもより一層現代的な感じを出していた。そんなことで、ホリー・ワディントンが手がけたベラの衣装がいちいち気になった。

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ショート丈の膨らんだ袖のコートにハイソックス+編み上げブーツや2017年春夏のバレンシアガを思い出してしまった黄色のラテックスのロング丈のケープやなど、現代の素材を用いたりして今でも全然通用するスタイルが多い。彼女のインタビュー記事によれば、ラテックスのコートはコンドームをイメージしたなど、ストーリー展開と関連させて衣装を考えたらしい。

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「雑誌の撮影は瞬間を切り取るものだが、映画のキャラクターには流れがあって変化していく。ヘアメイクでストーリーを語ることができるので大好き」とヘアメイク、ナディア・ステイシーが海外誌のインタビューで語っていたが、ホリーもきっとそういう気持ちで映画の世界にいるのでしょうね。

そして、さらなるファッション要素は、美術にセットデザイナーのショーナ・ヒースが参加していることである。

彼女はフォトグラファーのティム・ウォーカーとよく仕事をしていることで有名で、なるほど、ちょっとしたユーモアを交えつつこだわり抜かれているティム・ウォーカー的ムードが全体に漂っていたような気がする。鑑賞後に取材記事を読んだら、天井に巨大な耳があったり、脳みそのような柄の壁だったり、ペニス型の窓だったりしたよう。残念ながら気が付かなかったので、次に観る時にチェックしてみます......。

他にも『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞撮影賞にノミネートされたロビー・ライアンによる大胆な撮影方法やミュージシャンで作曲家のジャースキン・フェンドリックスによる不穏な音楽など、さまざまな才能が集結している。今回エマ・ストーンがプロデューサーも務めていて彼女の意見も採用したのかもしれないが、ランティモス監督には審美眼があり、多様な要素をまとめ上げる力もあるのだろうな、と思い知らされた。

ファッション関係者が作り上げるヴィジュアルをしのぐ勢いの作品。世界観に没入するためにもぜひ映画館でご覧ください!

栗山愛以

ファッションをこよなく愛するモードなライター/エディター。辛口の愛あるコメントとイラストにファンが多数。多くの雑誌やWEBで活躍中。

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