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パリ21区はどこなの? ボボたちは今。自由の風に吹かれてボボ症候群に。

パリには20区しかないと決められているけど、最近は21区もある、という人が出てきた。中心部が騒々しくなってきたので、パリを逃げ出す人たちがいるらしい。コロナ禍もあったからかもしれないが、最初にパリを離れるようになったのは、「ボボ」たちだという。

パリではブルジョアでボヘミアン、略して「ボボ」といわれる人たちは、裕福な家庭に育った人たちが多く、がむしゃらに仕事をするのがともかく苦手のようだ。日日どんな時も余裕たっぷりで、決まったカフェやショップや図書館にしか行かないし、それもカフェの中では自分の席が決まっている。うっかりその席に観光客が座っていたりすると、
「そこは私の領域です」と文句をいわれる。

そんなボボは、おしゃべりをする相手のギャルソンからして、いつも同じ顔だ。顔馴染みになると、そのギャルソンは他の客が、ボボの席に座ろうとしても、
「そこは僕の常連客の席です」と死守してくれるようになる。

付き合うには、ちょっと面倒くさいけど、知り合ってみるとなかなか味のある人が多いのも事実だ。結構私の友人たちの中には、ボボが多いような気もするし、自分自身もしかしたらボボ症候群かもしれない。馴染みのカフェで、いつもの自分の席が空いているとほっとする。

実家は高級住宅地の16区かもしれないが、自由気ままに生きるボボたちは、堅苦しい16区の実家を若い頃に飛び出し、自由の風の吹くセーヌ川対岸の6区辺りに住み始める人が多い、とこれまでいわれてきた。ところがそれが変わってきていると友人はいう。6区には国際的なハイブランドが界隈を占拠してきて、もともとはカルチャーエリアだったところが、コマーシャルエリアに変貌してしまい、これまでののどかな文化の香りの雰囲気が消えていっている。
「だったらボボたちはどこにいったの?」
「21区だよ」
「21区って、どこにあるの?」
「それがわからないんだ」という。

人によっては、21区はモントロイユだというし、いや、リラの門の近くだとかマラコフとか、諸説があって、確定的な答えは出てこない。要するにパリ近郊の町で、のどかな光景がどこまでも広がり、近所のカフェでは、静かにカシスのペリエ割りを飲んでいたりする。そういう光景の町に移り住んでいるようだ。

ボボたちの聖書は、哲学者ミシェル・フーコーの著書で、権力とカルチャーが合体して、理想国家ができる、という理論のようだ。
社会性やボランティア活動には、とても熱心で、先日「不機嫌になったペリカンを慰めよう」というボボのグループが生まれて、なんとかしてどこかのペリカンを癒そうとしていたという。

アートな遊び心を持ったボボたちは、これからもますます増えそうだというし、悪人のボボはあまり見たこともなく、エコ時代に必然的に生まれた新社会階層かもしれない。

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村上香住子

フランス文学翻訳の後、1985年に渡仏。20年間、本誌をはじめとする女性誌の特派員として取材、執筆。フランスで『Et puis après』(Actes Sud刊)が、日本では『パリ・スタイル 大人のパリガイド』(リトルモア刊)が好評発売中。食べ歩きがなによりも好き!

Instagram: @kasumiko.murakami 、Twitter:@kasumiko_muraka

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