子育てが「完璧」であってはいけない理由。

Lifestyle 2022.01.09

From Newsweek Japan

文/サラ・ショップ・サリバン(オハイオ州立大学心理学部教授)

フェイスブックを頻繁に利用するほど育児ストレスは大きくなる──親のあり方に正解はなく、他人と比較する必要もない。大切なのは全体像だ。

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子育てに自信が持てないストレスは悪循環を生む。氾濫する情報やSNSとも上手に付き合いたい。photo: DGLIMAGES-SHUTTERSTOCK

発達心理学の博士号を持っている私だが、生まれたばかりの娘を連れて病院から家に帰った直後の恐怖感はいまも覚えている。何をしたらいいのか分からなかった。娘に必要とされる親になれるかどうか、まるで自信がなかった。

目の前にいる無力な人間の世話をするための些細な判断についても、重大な決断を迫られているように感じ、不安におののいた。母乳を1年間、続けられなかったら? 娘がいる部屋はテレビを消して、ディスプレイの影響を受けないようにするべき? 生後5カ月で保育園に終日預けてもいいのだろうか?

子育てや子どもの発達の研究を一般向けに紹介する報道はあまり助けにならなかった。大ざっぱな説明は、傷つきやすくなっていた私の心にぐさぐさと突き刺さった。粉ミルクを飲むとIQが下がるのだろうか。寝る前に本を読んであげなかったら、娘は本を読めるようにならないかもしれない......。

私が親の経験について研究する理由のひとつは、自分自身の親としての経験にある。

2008~09年に第1子を授かった共働き夫婦182組を対象とする私たちの追跡調査「ニュー・ペアレンツ・プロジェクト」では、「子育て完璧主義」を数値化しようとしている。子育てに関して自分にあり得ないほど高い基準を課すこと、そしておそらくそれ以上に重要なのは、他人が自分に対してあり得ないほど高い基準を課していると思い込むこと。それが「子育て完璧主義」だ。

特に母親は、共働きであっても子育ての責任の矢面に立たされるだけでなく、完璧な親でなければならないという強いプレッシャーを感じている。

20世紀後半、ちょうど母親の社会進出が盛んになった頃、母親のモデルは「徹底育児」という理想へと進化した。子育てには時間とエネルギーを惜しまず、感情もすべてつぎ込み、専門家の助言に従うべきだとされた。

ただし、「完璧な」母親を目指すと、実際の子育てに悪影響を及ぼしかねない。新米の親に関する私たちの研究でも、特に母親が子育てについて他人の評価を気にするほど、自分の子育てに自信を持てないことが分かった。

ソーシャルメディアの普及はこの現象を悪化させているようだ。ほかの親が何をしているのか、自分と比較しやすいからだ。私たちの調査によれば、新米の母親の場合は特に、フェイスブックを頻繁に利用することと育児ストレスのレベルが高いことに関連性がある。

皮肉にも、完璧な子育てを求めるあまり、実際の子育てがうまくいかないときもある。自分の子育てを他人がどう思うだろうかと心配するうちに、母親は自信を失い、子育てが楽しくなくなって、よりストレスを感じるのだ。
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成長に合わせて柔軟に。

テレビやパソコンの画面を見る時間や睡眠習慣などについては、子どもの発達に関する専門家の間でも意見の相違がある。しかし、「いい」子育ての重要な要素については驚くほど一致している。

いい子育てとは、「何を」するかより「どのように」するかと大いに関係がある。子どものニーズに敏感で、成長や自立心に合わせて育て方を調整するなど、親が子どもに「同調」する。親が一貫性を持ち、子どもに愛情を注いで、子どもの行動に高い関心を払い、家庭のルールの理由を説明し、必要に応じて話し合いをする。そうしたなかで子どもは成長するのだ。

子育てのストレスが大きくなると、親の心理的余裕がさらになくなり、変化する子どものニーズに適切に対応する力や、子どもと向き合いながら自分の感情や行動をコントロールすることにも影響を与えかねない。

つまり、子育てに自信が持てず慢性的なストレスを感じていると、繊細で温かく一貫性のある子育てができなくなる。お皿をテーブルにたたきつけないでと幼いわが子に冷静に説明したくても、つい怒鳴ってしまうことも増えるだろう。

小さなことにこだわる必要はない。大切なのは全体像だ。ほかの母親がフェイスブックに投稿している内容は、彼らの子育ての現実ではないかもしれないし、あなたの子育てと同じでは決してない。子育てに関するセンセーショナルな見出しは、疑いの目で見てみよう。

今日、そして毎日、あなたが自分と子どもに与えられる最高の贈り物は、不完全であることを許すことかもしれない。

Sarah Schoppe-Sullivan, Professor of Human Sciences and Psychology; Faculty Associate of the Crane Center for Early Childhood Research and Policy, The Ohio State University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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text: Sarah Schoppe-Sullivan

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