【BWA AWARD 2023】新たな選択肢を創り出す、 女性たちの物語。 「自分らしく働く」を叶えるための"器"として会社を育てる。

Society & Business 2023.11.20

「美しく豊かな働き方」を実践する次世代の女性ロールモデルを讃えるフィガロジャポンBusiness with Attitude(BWA)Award。3回目となる本年のテーマは「新しい選択肢を創り出す女性たち」。既存の選択肢にとらわれず、新たな価値観を切り拓き、これからの働き方をより豊かにしてくれる5人の取り組みを紹介します。


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市原明日香
【 モデラート代表取締役 】

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市原明日香(いちはら あすか):1976年、福島県生まれ。大学卒業後、アクセンチュアに就職。顧客情報を一元管理し、良好な関係性を築くカスタマーリレーションシップマーケティング(CRM)に従事し、手腕を買われルイ・ヴィトン ジャパンに。その後スタートアップに転職するも、長男の病気が発覚し退職。7年のブランクを経て2014年、モデラート創業。流行や年齢に左右されないライフスタイルの「基」をコンセプトにしたファッションブランドSOÉJUを展開する。https://moderato-inc.jp

子育て中の女性が社会に出た時、どうしたら伸びやかに自分らしく働くことができるか。自分を受け止めてくれる社会の器は、一体どこにあるのか──。スタイリングサービスを軸とした企業、モデラートを率いる市原明日香が「働くこと」の大きな壁にぶつかったのは、いまから14年ほど前のこと。

「3社目のスタートアップに転職し、ふたりの子どもを育てながら働いていた時、体調不良が続いていた3歳の長男が白血病だと告げられました。衝撃を受けながらも仕事のことが頭をよぎってしまい、私、辞めることになるんだな、と心のどこかで覚悟しました」

東京大学を卒業し、外資系企業のアクセンチュアからルイ・ヴィトン、そしてバイオサイエンス系のスタートアップへ。輝かしいキャリアを積み上げてきた市原だが、働き盛りの30代、仕事にしがみつきながらも、実際は満たされていない自分を感じ始めてもいた。看病のため仕事から離れることで、長男の病気がわかる前から心のどこかにあったモヤモヤとしっかりと向き合うことになった。

「4歳になる手前から化学療法を断続的に続けた長男は、その後再発を繰り返しました。でも小学5年生の時、次男から骨髄提供を受けたことで奇跡的に回復へと向かっていったんです。その時、サラリーマンをしていた夫に『君は仕事に大きく賭けたほうがいいよ』と、背中を押されて、起業を決めました」

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左:現在、18歳と17歳に成長した息子たちはとても仲がよく、現在はふたりとも言葉を紡ぎ出すラップに夢中だとか。 右:「息子の病気がなかったら起業はしていなかった」という市原にとって、家族の存在は何より大きい。

クローゼットを管理するためのアプリ開発からスタートし、2015年、スタイリングサービス「SOÉJU personal(ソージュパーソナル)」の前身となるアプリを立ち上げた。もともとファッションに苦手意識があった市原。最初のキャリアでは正解だったダークスーツも、ルイ・ヴィトン時代には場違いと指摘された苦い経験がある。服選びに困っていた際に先輩が手を差し伸べてくれた時の喜びも、復職する際自分に似合う服がない心許なさも、すべて事業へと転換していった。

「SOÉJUのサービスは、長男の闘病の後、社会に戻っていく時に感じた課題感がすべてのベースになっています」

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「SOÉJU personal(ソージュパーソナル)」はプロによるファッションカウンセリングや、SOÉJUの試着相談が気軽にできるサービス。

ワードローブを総入れ替えするのではなく、プロのスタイリストが服選びを提案し、ほどよい価格のアイテムを足すことで自分に自信が持てるようになることは、何より市原自身が切望していたことだ。18年にはアパレルブランドSOÉJUをローンチし、ベンチャーキャピタルの投資を受けることにも成功した。メイクもファッションの一部という考えから、22年にはビューティブランド「IMAI(アイマイ)」をリリース。スタイリングとアパレル、ビューティという3つの柱を展開する。「極力サステイナブルの視点でものづくりをしたい」と、立ち上げから4年連続で廃棄ゼロを実現し、業界からも高い評価を得ている。「装いそのものの課題解決をしたかったのと同時に、装う時の罪悪感みたいなものを少しでも減らせたら、という思いもありました」

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日常のベーシックを揃えるSOÉJUのコレクション。タイムレスな服作りを目指し、廃棄やセールをしないというポリシーを掲げる。やむなく在庫となってしまった服は、「SOÉJU CYCLO(ソージュシクロ)」というシステムにより販売。売上の一部を公益財団法人に寄付している。

少数精鋭のフリーランスチームで始まった会社だが、現在社員は30人以上に増えた。80%以上が女性だが、男性も含めて、「子育ては順番。それぞれがちょうどよい速さで活躍できる"器"のような場に」と、育児中の人も力を発揮できる会社として成長を続けている。

人を包み込むような穏やかさを纏う市原だが、インタビュー中、強さと情熱で満たされた内面がにじみ出る瞬間も。

「起業するなら、誰かの悩みを解決するような事業にしたいと考えていました。子どもがどんな仕事をしているか聞いてきた時に、『世の中をちょっと良くするためにがんばっているんだよ』と答えたい。私にはこれまでずっと喜怒哀楽の"怒"が強くあったと思うんです。心のどこかでずっと、夫と自分を比較していたし、『なんで私だけがめいっぱい働けないんだろう』というネガティブな感情が渦巻いていました。起業に結びつくエネルギーには、怒りと悲しみ、そしてそこから抜け出したいという強い思いがありました」

家族と手を取り合って大きな困難を乗り越え、そして決して自分のことも諦めない。いま、市原の中には豊かさを実感できる瞬間がいくつも生まれているという。

「いまは、自分の人生が自分のものだと感じます。"怒"は、多くの仲間たちと繋がる喜びに取って代わって、私の新しいエネルギーになっています。"悲観は気分、楽観は意志"という、フランスの哲学者アランの言葉のように、人生を他責にしてはいけないんです」

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市原の次なる夢へと近づいたアートとSOÉJUのコラボレーションが実現。今年10月に、試着室をテーマにしたインスタレーションが、ポーラミュージアム アネックスで開催された。photography: Ryohei Nakajima

SOÉJUが掲げるブランドフィロソフィ「I like the way I am.」を実現するうえで、アートの可能性を強く感じている市原。「懸命に芸術表現をする人たちのために、いつか財団を作りたい」と、次なる夢を思い描いている。

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Judges' Comments

阿座上陽平(ゼブラアンドカンパニー共同創業者)
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起業を通して、自身も子どもも自分らしくいるための新たな選択肢を創り出し、周りの共感を生むまでに昇華している。身近な課題に着目しながら多くの人を巻き込むこともできる事例として注目したい。

工藤七子(一般財団法人 社会変革推進財団(SIIF) 常務理事)
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息子さんの病気と向き合う経験で形成された価値観が事業の各所に織り込まれていて素敵。ビジネスのスケールも追求していて、これからの女性起業家のロールモデルになってほしい。

篠原ともえ(デザイナー/アーティスト)
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悩みながらも、自分を信じて前を向き、人生をまっすぐ歩む姿が美しい。母としてのたくましさ、経営者としての強さ・賢明さを持ち合わせていて、受賞者のひとりとしてぜひ推薦したかった。

BWA Award 2023 受賞者一覧を見る

photography: Yuka Uesawa text: Miki Suka

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